絵物語「ジャックの箱庭」

箱に閉じこもっていたジャックの目に映る世界の姿。絵と文章でつづる人々の群像劇です。 

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◆ジャックの箱庭 02「ワンマンライブ」

絵物語 02「ワンマンライブ」 a

私が公園でそれを見たのは本当に偶然だった。

電車を降りた私は近くにある公園によった。
緑が多く公園内には動物園があり、週末になると賑わいを見せる大きな公園だ。

暦の上では既に冬を迎え、寒がりな私は手袋にコートを装備している。
そんな寒がりが、わざわざ寒空の下でぼんやりとしている訳は、

決して妻の機嫌で変わる、昨晩の料理が最悪に不味かったからではないし
決して小1時間程前、上司の罵声を受けて会社に戻りづらくなったことが原因ではないのだが

私は気分を落ち着けるためにベンチを探していた、すると少し離れた場所から音楽がきこえてくる。
休息をあとにし気づくと音の方に足を運んでいた、昔から音楽に対しての興味は変わっていない。

よく聞くと覚えのあるフレーズだった。何度も何度も繰り返し叩いたスネアの音だ。
最近の曲ではない。

これは、僕達しか知らない曲だ。

もう解散してから5年は経っていた。メンバーは散り散りになり、それぞれがそれぞれの道を進んで行ったはず。
にも関わらず主張の強いドラムが響き渡り、負けじとかき鳴らされたギターの音は紛れも無い本物だった。
それは模倣された曲などではなく、僕達の癖が一心に詰まっている、
僕達にしかだせないオリジナルの音だった。

気が付けば私は、駆け出していた。

走れば走るほど、音が近づけば近づくほど思い出す。
けして売れることはなかったが、自分たちの音楽を貫いていたあの時、
その先が見えず変わらない現状に不満を感じていた僕、そして最後まで純粋に自分達の音楽を信じていた1人の仲間…

そして衝突し解散した、僕達のバンドのことを。

―呼吸が乱れている、息が続かない。

血の気が多いとは言えない僕達が本気で殴り合い、
お互いにお互いを傷つけあい、罵り合い、理解されなかった記憶。

音は近い、すぐそこまで来ている。

大勢の人で賑わい、曲も中盤にさしかかっている。
私が到着した時には人混みで前が見えなかった。

一目見たい、つのる思いで人混みをかき分ける。
一歩踏み込めば、人の肘が私の頭にぶつかる。
一歩踏み込めば、私の靴が誰かの足を踏む。
その一歩を続け、とうとう前に出た。

顔を上げればそこに彼がいた。旧い友人、誰よりも信頼していた仲間。
思いもしない姿で彼は演奏している。

…彼は続けていたのだ、1人で。

ギターも弾いたことがなければ、ドラムを叩いたことさえなかった彼が、
僕達の癖をその身につけ変わることの無い音楽で、多くの感動を求めるために歌っている。

人によっては、その姿をこっけいだと笑うかもしれない、
けれどそれをも忘れてしまう彼の演奏に、周りの人々、隣にいる熱心な眼差しの少年、
そして私までもが魅了されていく。
やかましいほどのハイハットの音は、昔に彼が「やかましい!」と怒鳴りつけた音そのものだった。

私の口元に笑みが浮かぶ。

周りに目をくれず、いくつもの動作を同時に行い、彼は自分の主張を叩きつける。
僕はその音に酔いしれていた。

ライブが終わろうとしてる。

私は振り返り、人垣の外れまで出た。
あふれる思いを抑え、私は誰よりも大きな拍手を彼に送るため、

ゆっくりと、手袋を外した。

絵物語 02「ワンマンライブ」 b
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  1. 2010/06/13(日) 10:24:01|
  2. 作品
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◆ジャックの箱庭 01「踏切があがったら」

絵物語 01「踏切が上がったら」a

息子が教えてくれるまでは気づかなかった

新年の挨拶を神様より先に動物園のトラにした報いかもしれない
地元で有名な開かずの踏み切りにはばまれてしまった

リズミカルに「カンコン、カンコン」と警報機が鳴り
赤いランプが交互に点滅している
暫くして郵便配達員が私たちの横に並ぶ
息子は狭いベビーカーの中から警報機の音と同じリズムで
左右に体をゆすっている、とても上機嫌の様子だ
ふと息子は体をゆするのを止め、斜め上空を指差し私に何かを訴えかけてきた
私は、中腰だった体を起こし息子の指差すほうを辿る

警報機の音に気をとられていて分からなかったが
大きなそれは、踏み切りで電車が過ぎるのを待っている私たちへ
立派なお腹を見せつけるように、頭上をゆっくりと通過していった

横にいる妻は年の初めにいいものが見れたと喜ぶように
にんまりとした表情を浮かべている
息子は始めてみた大きなそれに興奮し
手足をばたつかせ、ベビーカーに固定された体を目一杯に動かしていた
口を開け何かをしゃべっている様だが警報機の音で聞こえなかった

電車はまだこない
電車に乗りたいわけでもないのに電車を待っている
なんだかフクザツな気分だ

でもまあいいか、とその時わたしは思った

隣の郵便配達員は業を煮やしている

電車が過ぎ踏切があがったら、息子に大きなあれの名前を教えてあげようと男は思った

絵物語 01「踏切が上がったら」b
  1. 2010/06/13(日) 10:22:18|
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