絵物語「ジャックの箱庭」

箱に閉じこもっていたジャックの目に映る世界の姿。絵と文章でつづる人々の群像劇です。 

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◆ジャックの箱庭 03「青虫と赤い自転車」

絵物語03「青虫と赤い自転車」a(450)


蜜柑の葉が喰われていた。

五月に入り、風も空気も暖かくなってきて寒さもゆっくりとその存在を忘れさせてくる。
そんな春の陽気がとても気持ちいい時期に、私は菜園の手入れをしていた。
多摩の陽射しはとても強かったが、私はニコニコしながら水を捲いている。
決して大きくは無い菜園だが、私の自慢の庭だ。

けれど、そんな自慢の庭を脅かす存在がいる。
青虫達だ。彼らはいつだってこの時期にやってくる。
新しい命のために葉っぱへ卵を産んでいき、美しい蝶になる為、その葉っぱを食べていく。
特に私の菜園で一番人気なのは蜜柑の木だ。
青虫達の中でもよほどの美味なのか、放っておくと、葉がまるごと食べられることもある。
そして…そんな欲張りな青虫達の成長した姿を、一目見てみたいという気の迷いこそが
きっと一番の難敵なのだ。ようするに、私は甘いのだ。

菜園は瑞々しく、蜜柑の木や他の植物の葉が水を浴びて気持ちよさそうにしていた。

庭に水を巻いていると、家の中から娘のドタバタした足音が響いてきた、
どうやら習い事の道具を探しているらしく、
部屋の中から『どこぉ?』と言った可愛らしい声が聞こえてくる。
娘は今年で6つになる、聞く度に好きな相手が変わる娘を見ていると、
大きくなった時にどんな娘になるのか、期待半分、心配半分であった。
もっとも、あの人は心配で心配でたまらないようだけど。

そんな私の二つ目の自慢である娘は、最近になって意中の相手を見つけたようだ。
部屋の中から娘の声とは違う、暖かな音が響いた。
それは"三線"と呼ばれている楽器だった。
三味線とは少し違う楽器で、より深みのある音を醸し出す。
春休みに沖縄へ里帰りをした時、たまたま街で弾いていた音に心奪われたようだ。
今まで何に対しても、そんなに執着を見せなかったあの子が、
自分からどうしても習いたい、どうしても弾いてみたいとせがんできた。

娘に甘く昔はバンドを組んでいたあの人は、音楽に関心を持った娘に喜びながら、
すぐに楽器を用意し、近所で沖縄出身の方が開いている三線教室まで見つけてきた。
最初こそ呆れていたが、娘が毎日弾いてくれる音は、いつしか私の楽しみになっていた。

しばらく待つと今度はせわしい程の足音が響いてくる。『遅れるぅ!』と娘の声が反響していく。
玄関のドアが凄い勢いで開閉し、肩に楽器を担いだ娘は、慌てて自転車をとりに向かった。
自転車は真っ赤な自転者だ、最近になってようやく補助輪を外す事ができたので、
いつでも自慢気に自転車をこいで遊びに行っている。
出かける前に一言、私は励ましの言葉をかけようと待っていた。

しかし暫く待っていたが一向に出かける気配がなかった。
私は訝しんで娘の方へ行こうとしたが、丁度でてきたので改めて菜園の方から声をかけることにした。

けれど、何故か娘は自転車にのっていない。
私の頭に疑問が生まれるが、娘は急いで教室の方に向かっている。
駆けていく娘の顔は、なぜか微笑んでいた。
自転車に乗っていないことも含めて、私は不思議な感覚になった。

気になったので娘が乗っていかなかった自転車の方まで近づく、
あんなにも急いでいたのに自転車に乗らず走っていった理由が気になったのだ。
自転車は菜園のすぐ側にあるので、少し近づけば確認できた、

そこで気づく、なんで娘が自転車に乗っていかなかったのか、なぜ微笑んでいたのかを。
季節と一緒に変わってゆく娘の姿を、その背中が視界から消えていくまで見送ることにした、
成長していく娘の姿を頭に思い浮かべていると、

ふと私の頭の中で、娘の三線を弾く心地よい音が、こだましてきた。

絵物語03「青虫と赤い自転車」b(450)
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  1. 2010/08/12(木) 03:10:52|
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◆ジャックの箱庭 02「ワンマンライブ」

絵物語 02「ワンマンライブ」 a

私が公園でそれを見たのは本当に偶然だった。

電車を降りた私は近くにある公園によった。
緑が多く公園内には動物園があり、週末になると賑わいを見せる大きな公園だ。

暦の上では既に冬を迎え、寒がりな私は手袋にコートを装備している。
そんな寒がりが、わざわざ寒空の下でぼんやりとしている訳は、

決して妻の機嫌で変わる、昨晩の料理が最悪に不味かったからではないし
決して小1時間程前、上司の罵声を受けて会社に戻りづらくなったことが原因ではないのだが

私は気分を落ち着けるためにベンチを探していた、すると少し離れた場所から音楽がきこえてくる。
休息をあとにし気づくと音の方に足を運んでいた、昔から音楽に対しての興味は変わっていない。

よく聞くと覚えのあるフレーズだった。何度も何度も繰り返し叩いたスネアの音だ。
最近の曲ではない。

これは、僕達しか知らない曲だ。

もう解散してから5年は経っていた。メンバーは散り散りになり、それぞれがそれぞれの道を進んで行ったはず。
にも関わらず主張の強いドラムが響き渡り、負けじとかき鳴らされたギターの音は紛れも無い本物だった。
それは模倣された曲などではなく、僕達の癖が一心に詰まっている、
僕達にしかだせないオリジナルの音だった。

気が付けば私は、駆け出していた。

走れば走るほど、音が近づけば近づくほど思い出す。
けして売れることはなかったが、自分たちの音楽を貫いていたあの時、
その先が見えず変わらない現状に不満を感じていた僕、そして最後まで純粋に自分達の音楽を信じていた1人の仲間…

そして衝突し解散した、僕達のバンドのことを。

―呼吸が乱れている、息が続かない。

血の気が多いとは言えない僕達が本気で殴り合い、
お互いにお互いを傷つけあい、罵り合い、理解されなかった記憶。

音は近い、すぐそこまで来ている。

大勢の人で賑わい、曲も中盤にさしかかっている。
私が到着した時には人混みで前が見えなかった。

一目見たい、つのる思いで人混みをかき分ける。
一歩踏み込めば、人の肘が私の頭にぶつかる。
一歩踏み込めば、私の靴が誰かの足を踏む。
その一歩を続け、とうとう前に出た。

顔を上げればそこに彼がいた。旧い友人、誰よりも信頼していた仲間。
思いもしない姿で彼は演奏している。

…彼は続けていたのだ、1人で。

ギターも弾いたことがなければ、ドラムを叩いたことさえなかった彼が、
僕達の癖をその身につけ変わることの無い音楽で、多くの感動を求めるために歌っている。

人によっては、その姿をこっけいだと笑うかもしれない、
けれどそれをも忘れてしまう彼の演奏に、周りの人々、隣にいる熱心な眼差しの少年、
そして私までもが魅了されていく。
やかましいほどのハイハットの音は、昔に彼が「やかましい!」と怒鳴りつけた音そのものだった。

私の口元に笑みが浮かぶ。

周りに目をくれず、いくつもの動作を同時に行い、彼は自分の主張を叩きつける。
僕はその音に酔いしれていた。

ライブが終わろうとしてる。

私は振り返り、人垣の外れまで出た。
あふれる思いを抑え、私は誰よりも大きな拍手を彼に送るため、

ゆっくりと、手袋を外した。

絵物語 02「ワンマンライブ」 b
  1. 2010/06/13(日) 10:24:01|
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◆ジャックの箱庭 01「踏切があがったら」

絵物語 01「踏切が上がったら」a

息子が教えてくれるまでは気づかなかった

新年の挨拶を神様より先に動物園のトラにした報いかもしれない
地元で有名な開かずの踏み切りにはばまれてしまった

リズミカルに「カンコン、カンコン」と警報機が鳴り
赤いランプが交互に点滅している
暫くして郵便配達員が私たちの横に並ぶ
息子は狭いベビーカーの中から警報機の音と同じリズムで
左右に体をゆすっている、とても上機嫌の様子だ
ふと息子は体をゆするのを止め、斜め上空を指差し私に何かを訴えかけてきた
私は、中腰だった体を起こし息子の指差すほうを辿る

警報機の音に気をとられていて分からなかったが
大きなそれは、踏み切りで電車が過ぎるのを待っている私たちへ
立派なお腹を見せつけるように、頭上をゆっくりと通過していった

横にいる妻は年の初めにいいものが見れたと喜ぶように
にんまりとした表情を浮かべている
息子は始めてみた大きなそれに興奮し
手足をばたつかせ、ベビーカーに固定された体を目一杯に動かしていた
口を開け何かをしゃべっている様だが警報機の音で聞こえなかった

電車はまだこない
電車に乗りたいわけでもないのに電車を待っている
なんだかフクザツな気分だ

でもまあいいか、とその時わたしは思った

隣の郵便配達員は業を煮やしている

電車が過ぎ踏切があがったら、息子に大きなあれの名前を教えてあげようと男は思った

絵物語 01「踏切が上がったら」b
  1. 2010/06/13(日) 10:22:18|
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